2019/12/04 01:37


こんばんは、革工房ユウナギ店主の田中です。
先日、ターコイズ色の名刺入れ、三角コインケースをオーダーいただいた方から追加注文でサーモンピンクの名刺入れのご注文をいただきました。


早速いつもお世話になっている福岡市内の革屋さんに行き、ご希望に近いカラーの革を仕入れます。イメージに近いものがありました。


できあがった作品は下記のとおりです。







「名入れもお願いしたい」とのことで、背面のそこまで目立たない位置に打刻にて名前を刻印しました。





特に女性に人気の革。日本でも有数のタンナー「姫路レザー」のティーポと呼ばれる銘柄の革を使用しています。
植物タンニンで丁寧に鞣した革に鮮やかな染色を行ったもの。ティーポは他の作品でも多く使用していますが、銀面(革の表面)はもちろんのこと、床面(トコメン:革の裏面)も幻想的で美しいのが特徴です。


床面をそのまま使うと強度に難がでるのと汚れがつきやすい欠点があるため天然ワックスを塗り込み軽く磨いています。
こうすることで床面からの劣化を防ぎ、銀面の圧といいますか、より主張のある雰囲気に仕上げることができます。


ちょっと余談っぽくなりますが、せっかくなら革のことをより深く知っていただきたいので、この床面とコバについてぼくの所感を簡単に下記にまとめます。


床面とコバ



▲スカイブルーティーポの床面、バサバサとした手触りで見た目も独特


銀面は外界側の部分、つまり、外的な刺激等に対して防御が用意されている側の革になります。人間の皮もいちばん外の部分が強くめくればめくるほど(痛そう)弱くなります。床面は内臓よりの裏面皮。コバもその革の側面となりますので強度はそこまで高くありません。


そこで通常、革職人さん・革作家さんは床面磨き・コバ磨きといった処理を施します。この両作業、ともにとても奥が深いです。この方法だったらきれいになるといった単純なものではなく革の素材や種類、使用するワックスや溶剤、スリッカーや蜜蝋などによって仕上がりがガラリと変わります。


ユウナギではSEIWAさんが発売している「トコノール(天然ワックス)」、普通の「水」、ユウナギで販売している「無添加蜜蝋ワックス」などを革素材によって使い分け床面とコバを軽く磨くようにしています。磨きに使用するのは指、黒檀スリッカー、帆布、布などです。


今回の作品。天然ワックスは床面だけでなく革の側面、コバと呼ばれる部分にも塗布しています。この部分をカッチカチになるまで磨いている作家さんを多く見かけますが、ユウナギではそこまで気合を入れて磨きません。


個人的に磨きすぎると人工的な雰囲気が出てしまう点がイヤだからです。それ以外に特に理由はありません。
稀に、おせっかいな作家さんが「コバもキレイに磨けずに…」みたいな感じのこと言っていますが「そんなの自由なはずなのになあ」と思います。



▲今回の作品と同じ革を使った別作品の革コバ。結構気合い入れて磨いてこんな感じになります


例えば革ブランドで著名なイルビゾンテさん。ぼくも好きで良くお店に足を運びます。これだけ大きなブランドでもほとんどの作品のコバは切りっぱなしです。ビゾンテさんにも文句つけるんですかね?(笑)


コバ磨きに対して躍起になる人の気持もわかります。コバ面は最も摩擦や汚れが付きやすい部分です。もし、画面の前のあなたが何かしら革小物を持っていたらコバを見てみてください。特に男性で財布や名刺入れをポケットに入れて使用している方はコバから経年劣化しているのが見て取れると思います。


経年変化と経年劣化は別物として認識しています。経年変化は、革に含まれた植物タンニンや動物性オイルが変性し色合いが深くなり味が出ること。経年劣化はただの劣化で破損に繋がります。たいてい、革小物は側面角から劣化していきます。財布で言ったら折り曲がった部分の側面ですね。



▲使っている財布のコバ。折れ曲がる下部が特に劣化しているのが目に見えます


適度に水分を含ませたキメの細かいタオルなどでやさしく吹いてあげるとこの汚れがスッと落ちます。乾いたら蜜蝋ワックスを多めに塗布して保革+保湿。この財布にはクリーナーを使ったことはありません。




▲開封後3年ほどもちますし、なめても大丈夫なくらいオーガニックな素材のみ使用しています





どんなにいい革も万能ではありません。丁寧に使えば20年、30年と持つものもありますし、あっという間に壊れてしまうものももちろんあります。お直しをしながら長く使っていただけるものも多いでしょう。コバがカッチカチに強いと確かにコバ面からの劣化は防げます。でも、ユウナギとして出したいナチュラル感や脱力感?を大きく損ねてしまうので、ユウナギではそこまで気合を入れてコバを磨かないという方向性を取っています。


たぶんこれも好みの話です。


まとめ



ユウナギで使用している革はすべて天然モノです。革の天然モノ、なんて言われてもピンと来ないかもしれませんが、化学溶剤を使わない手法で鞣されたタンニンなめしの革を使用しているという点がおそらくそれに当たると考えています。「本革」の定義だって使う人であいまいですし。


なので、言い訳っぽく聞こえてしまうかもしれませんが、形あるものは必ず壊れるし朽ち果てていくものなので、その摂理に人間ごときが一生懸命抗うのもおかしいかなあなんて考える今日この頃。壊れたらいくらでもお直ししますし、再起不能になった作品はまた作ればいいと思うのです。